水中における高速無線通信手段の整備のため開発を進めてきた水中可視光無線通信技術について
海洋の開発を進める際、現状は、「船舶、潜水船、水中ロボット」を使った観測により、水中カメラによる映像、音響測深機等による地形データ、水温、濁度、電気伝導度、塩分などのデータを取得するのだが、これらのデータを海中からリアルタイムに通信するためには、これまでは、ケーブルによる有線通信か、音響による無線通信が主流であった。有線通信ではインターネット同様の通信速度を得られるが、潜水船または水中ロボットが船舶と有線で接続されているため、それらの行動範囲が制限されてしまう。そこで、水中ロボットを邪魔なケーブルから解放するために、ケーブルレス化=無線化の必要性が出てくる。従来から利用されている音響による無線通信速度は、1秒間に送受信が可能なデータ量が~0.1Mbpsと低速であり、高解像、高時間分解能の観測データをリアルタイムに陸上へ伝送することは、データ圧縮技術を用いても難しい。そこで、音響以外の他の手段、電波、光波等の電磁波を、その水中での伝搬特性を踏まえて利用していくことが求められていました。
水中での電磁波の伝搬特性から、電磁波のなかでは可視光、とくに青色~緑色あたりの波長が水中での透過率が高い。すなわち、純粋な水の物理特性では、青色~緑色光での通信が一番遠方に通信できる。
2017~2018年にかけて、JAMSTEC保有の無人探査機「かいこう」(水中ドローン関係)を用い、移動体間において通信距離120mで通信速度20Mbpsを達成した。この成果により当時、水中のIoTインフラが構築可能であることを実証した。
(株)島津製作所ではこの研究成果を基に製品化を進めている。2020年2月に、海底ステーションと水中ロボット間の通信を主目的とした短距離通信装置(通信速度95Mbps:通信距離10m)を発売。また、水中ロボット間通信を主目的とする中距離通信装置(通信速度20Mbps:通信距離80m)を2022年6月に発売した。これらの装置は、いずれも主に水中ロボットに搭載することを主目的とした装置であるが、通信をする相手としては、水中ロボットであったり、水上艇であったり、海底に設置されたステーション等が想定される。
課題は、今後、日本においては、沿岸部および浅海部においては、四季の変化におけるプランクトンの発生量の違いから生じる透過率の変動、陸上からの土砂の流入による透過率の低下等で、通信距離に大きな影響を及ぼすことである。通信光を切り替えることで、ある程度の改善はみられるが、抜本的な改善は期待できない。打開策としては、他の通信方式、例えば音響通信方式との併用が考えられるが、水中ロボットに搭載する際は、いかに小型化、低コスト化、低消費電力化ができるかが課題となる。最適な設計を行うためには、搭載する水中ロボットの能力を考慮しなければならないため、水中ロボットメーカとともに、実海域での試験で有効性を確認していくことが望ましい。
また基地局については、敷設、揚収、および点検手法の確立および、海生生物が付着した場合の通信性能への影響、除去方法等を確立する必要があるようである。
水中光WiFiステーションを、海底油田設備に設置したイメージ。水色の半球で示された部分が、光WiFiエリアを示す。
当初研究開発は、防衛装備庁とJAMSTEC協業で2017年頃行われていた。
島津製作所サイト( https://www.shimadzu.co.jp/messe/exhibition/mobility/communication/01.html )より
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